山形大学理学部 植物生態学研究室
Tomimatsu Lab at Yamagata University

これまでの主な研究プロジェクトです。多くは学外の研究機関との共同研究です。

緯度に沿った個体群の比較分析から分布域の決定要因を探る

生物の分布域はどのようにして決まるのでしょうか。私たちは、分布域の決定要因や気候変動に対する応答機構を探るために、複数の草本種を対象として緯度に沿った地理的変異を調べています。 分布域の決定要因を解明することは、環境変動が生態系が及ぼす影響を評価する上でも重要です。 将来、平均気温や降水量がさらに上昇(増加)することが予測されていますが、これらの気候要因が異なる環境傾度に沿って個体群を比較することは、気候変動に対する生物種の応答を予測する手掛かりを得る上で有効だと考えられます。 例えば、岩手県を分布南限とするオオバナノエンレイソウは、生育密度が北海道の石狩地方や十勝地方で最も高く、南方あるいは北方へ向かうにつれて低くなる傾向("abundant-center distribution")を示します。 本種では、成長や繁殖に関わる適応度成分や個体群成長率の比較分析、生態ニッチモデルなどを用いて、低緯度や高緯度において個体群成長を制限する要因について明らかにすることを目指しています。

森林でササがどのように密生するか

日本の森林では林床にササが広く優占し、その被度は森林全体の 30% にも及ぶと言われています。 ササが密生すると、樹木の実生更新を妨げることが知られており、森林生態系に大きな影響を及ぼします。 ササは地下茎を伸ばして殖えるクローナル植物で、数十メートルにも及ぶクローンを形成するほか、100年以上とも言われる長い一生のうち一度だけ、広い範囲で同調して一斉に開花・枯死するという特有の生活史を示します。 私たちは、1995年に十和田湖畔のブナ林で開花・枯死したチシマザサ集団を追跡し、長い年月をかけて再び密生するようになる更新過程を分析しています。 これまでに (1) 枯死後の回復には20年以上の時間を要すること、(2) 明るい林冠ギャップなどで速く成長したクローンが、光の乏しい林内へも広がっていくことで、森林全体でチシマザサが密生するようになることなどを明らかにしました。 クローナル植物では、地下茎を介してクローン内で炭水化物を転流させることも知られており、ブナ林におけるチシマザサの密生過程は、比較的明るい場所における光合成生産によって支えられている可能性があります。

【論文】 Aikawa et al. (2017) Bamboo Journal 30: 8–17; Matsuo et al. (2018) Ecology and Evolution 8: 1746–1757. 【 プレス発表資料はこちら

優占する植物種の遺伝的多様性が生態系プロセスを高める

近年の生態学では、環境条件やそれに対する適応など、生物多様性を形作る要因に注目してきた従来の枠組みを拡張して、生物の多様性が様々な生態系プロセスにどのような影響を及ぼすか(例えば、多様な植物群集ほど一次生産速度が大きいか)について明らかにしようとしてきました。 このような研究は、生物多様性が急速に低下しつつあるなかで、生態系の管理に対しても重要な示唆を導いています。 私たちは、ヨシの遺伝的多様性(遺伝子型数)を操作した実験を行い、遺伝的多様性が高い方がヨシによる一次生産速度が大きく、水質の浄化効率も高くなることを示しました。 遺伝的多様性の効果は、亜酸化窒素(N2O)を還元する脱窒細菌の密度にも影響を及ぼすことで、地下部の生態系にも波及していました。 ヨシは、廃水処理を目的とした人工湿地に用いられており、遺伝的多様性を確保することが水質浄化効率を高める上でも重要な役割を果たすことが期待されます。

【論文】 Tomimatsu et al. (2014) Oecologia 175: 163–172.

森林の分断化に対する植物個体群や群集の応答

生息地の破壊や分断は、生物多様性に対する最も大きな脅威の一つです。 北海道十勝平野では、1880年代からの農地開拓によって広大な落葉広葉樹林の大部分が失われ、小さく分断されて残っています。 私たちは、十勝平野を代表する林床植物であるオオバナノエンレイソウを対象として、森林の分断化が昆虫による花粉媒介や種子生産、種子の発芽をはじめとする様々な生活史過程に影響を及ぼすことを報告してきました。 また、明るく乾燥した環境を好むミヤコザサ(オオクマザサ)が分布を拡大し、林床植物の種多様性の低下を招いた可能性が高いことを示しました。 一方、林冠を構成する樹木に目を向けると、分断後に多くの大径木が枯死することによって失われたバイオマスが、徐々に回復していく様子を捉えることができます。 このような植物個体群や群集のダイナミクスは、森林の林縁を中心とする環境条件の変化(=エッジ効果)によるところが大きいと考えられます。

【論文】 Tomimatsu & Ohara (2002) Conservation Biology 16: 1277–1285; Tomimatsu & Ohara (2004) Biological Conservation 117: 509–519; Tomimatsu & Ohara (2010) Oecologia 162: 371–381; Tomimatsu et al. (2015) Ecological Research 30: 1057–1064.

最終氷期以降の植物の移動分散パタンに人間活動の痕跡を探る

分布域の歴史的変遷を理解する上で、移動分散に関する知見は欠かせないものです。 外来種に代表されるように、人間が移動分散の重要なベクター(運び手)になることがありますが、栽培種を除けば、歴史的な人間活動が植物の移動分散に及ぼした影響については推測の域を出ていません。 Camassia quamash(リュウゼツラン科)は、北米北西部に広がる草原生態系に生える草本で、先住民が鱗茎を広く持ち運んで交易を行っていたことが民族植物学の研究によって知られています。 私たちは、葉緑体 DNA の変異を分析し、C. quamash の移動分散に影響を及ぼした要因について検討しました。 その結果、本種の遺伝構造は、過去に分布していたコルディエラ氷床やカスケード山脈を含む地理的障害の影響を強く反映しており、民族植物学に基づく仮説を支持しませんでした。 カスケード山脈の西側では、南方に位置していたレフュージア(退避地)から最終氷期以降に北方へ分布拡大したと考えられましたが、北方にも従来想定されていなかったレフュージアが存在した可能性が示唆されました。

【論文】 Tomimatsu, Kephart & Vellend (2009) Molecular Ecology 18: 3918–3928.

自家受精と花形態の進化

なぜ同じ植物種でも花の大きさが異なるのでしょうか。動物媒花植物では、他殖型の植物よりも自殖型の植物で花弁や花冠が小さくなる傾向があります。 この現象は、花の各器官に対する資源配分をトレードオフの制約の下で考える性配分理論(sex-allocation theory)によって説明されてきました。 つまり、他殖型の植物では、花粉を媒介する送粉者を誘引するために大きな花弁や花冠が好まれるというものです。 しかし、従来の理論では資源配分の階層性が考慮されていませんでした。 植物は、花弁や雌ずいに対する資源配分を変えるだけでなく、花全体の大きさや花数を変えているかもしれません。 私たちは、交配様式(自殖 vs. 他殖)が異なる北海道のオオバナノエンレイソウを対象として、資源配分の階層性を考慮した性配分理論の再検討を行いました。 その結果、(1) 花弁の大きさは、自殖・他殖型の個体群間で平均 2 倍程度の違いがあること、(2) 自殖型の個体群では、花弁に配分する資源量が少ないだけでなく、花数を多くすることで個々の花(そして花弁が)が小さくなっていることが分かりました。 本研究の結果は、交配様式と花形質の相関進化について、新しい示唆を与えるものです。

【論文】 Tomimatsu & Ohara (2006) American Journal of Botany 93: 134–141.