相対論的な渦の散乱

 

参考文献:
























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ここでは場の理論に現れるソリトンのダイナミクスを具体例を用いて観察してみよう。場の理論としては最も単純で簡単な複素スカラー場を一つだけ含むものを考えることにする。

ちなみに、スカラー場とはスピン0のボソン場であり、素粒子物理学では例えば中間子やヒッグス場などがある。

また相対論的か非相対論的かという違いはあるが、物性でもHeの超流動などにスカラー場(波動関数)が登場する。また、スカラー場は宇宙論でもインフレーションを起こすインフラトンなどとして現れ、重要な役割を果たすことが知られている。


以下に見る、トポロジカルソリトンはこの複素スカラー場

に特徴的なソリトンで,特にボルテックス(渦)と呼ばれるものである。


日常我々が良く見る渦は「渦度」と呼ばれる渦の強さで特徴づけられる、流体の一つの形態である。普通の渦は渦度が連続的に変化するが、場の理論等でに登場するトポロジカルなボルテックスは、その渦度が量子化されているため、渦度が連続的に変化することが出来ず、安定に存在出来る。これを量子渦などと呼ぶこともある。


少し話題が飛ぶが、相対論的な量子論に基づくと、電子などの粒子には必ず反粒子が対になって存在することが知られている。電子の反粒子は陽電子呼ばれ、電子と電荷が逆であるが、質量や寿命などは電子と全く同じ性質を持つ。

電子と陽電子がぶつかると対消滅して光を放って消えてしまう。我々の世界は物質からなるが、これは宇宙が始まったときに反物質の量よりもわずかに物質の量が多かったためである。しかし、この物質と反物質の量に何故差があったのかというのはまだわかっていない素粒子論の大問題の一つである。


さて、話を元に戻そう。場の理論を量子化すると粒子としての性質を取り出すことが出来るが、一方で古典的には波としての性質もある。波としての性質に深く関係しているのがソリトンであるが、粒子に反粒子があるように、ソリトンにも反ソリトンがある。場の理論に現れるトポロジカルソリトンは渦度が量子化されているため、まるで粒子のように一個二個と数えることが出来る。つまり、渦の反粒子として反渦があるというわけである。粒子と反粒子がぶつかれば光を出して消滅してしまうが、


では、渦と反渦がぶつかるとどうなるだろうか?


答えは「消えてなくなる」である。

このことを実際の数値計算で見てみよう。まず時刻0に渦と反渦を適当な距離を離して置いてみる。渦と反渦の間には引力が働くため自然に近づいて衝突する。以下が数値計算から得られた衝突の様子である。渦と反渦が衝突してエネルギーを周囲にまき散らして消滅していく様子が良く分かると思う。

以上に見たように、渦と反渦は衝突すると質量ゼロの波を放出して最終的に消えてしまう。つまり、1+(−1)=0という計算が成り立っているわけである。

粒子と反粒子の衝突も良く似ていて、衝突により質量ゼロの光を周囲に放出して消えてしまう。


この粒子とトポロジカルソリトンの類似性は、すなわち「場」の「古典的な側面」と「量子的な側面」の類似性は、素粒子理論において非常に重要であることがしられている。


つづく

t=0 :渦と反渦を有限の距離

離して静かに置く

t=5

t=8

t=9

t=10

t=11

t=12

t=13

t=14

t=15

t=18

t=20

t=25

反渦

近づいて山が高くなる

衝突して散乱方向が90°変わる

渦と反渦がぶつかり渦がなくなり始める

衝突の余波:質量0の波がエネルギーを運ぶ

第一波に続き、エネルギーの高い第二波が発生している