非平衡科学とトポロジー

山形大学 理学部 研究クラスター

Since 2017.04.01

 

第3回目のミーティングの発表担当は衛藤でした。今回は私(衛藤)の研究の紹介と合わせて、反応・拡散系の偏微分方程式に関する物理系の論文を紹介しました。特に本クラスターの目的でもあるトポロジーと非平衡反応がどう関係するのかという点について焦点を当てましした。種々多様な反応・拡散系が知られていますが、まったく違う反応系であっても、系のパラメータのわずかな違いで現れる模様がスポット型になったり迷路型になったりとかなり類似する性質を見せることがあります。このような類似性が現れる背後には微分方程式の背後に共通のトポロジーに関係したキャラクターがあるだろうと考えることが出来るというのが大まかな結論でした。具体例として Ferrocyanide-Iodate-Sulfite 化合物、Gray-Scott模型、そして前回の並河先生の発表にも登場したFitzHugh-Nagumo模型を記述する偏微分方程式を調べ、その方程式の空間的に一様な解について2次元流(力学系)を見るとその分岐点の構造の情報だけで、空間的に非一様な解についてもその構造の大体の様子が決まってしまうということでした。興味深い内容の論文で本クラスターの研究とも密接に関係する内容でしたので、皆で議論をしながらお互いに分からないことを質問し議論を深めました。最後に少し残された時間で私の研究紹介の一部としてトポロジカルソリトンの初歩的なことを紹介しましたが、私の予想を超えて物理以外の分野と共通点があることが分かりとても有意義な議論を交わすことができました。今回の議論を元に、今後は実験やより数学的な視点からトポロジーと非平衡現象について理解を深めていきたいと思います。(文責:衛藤)

第2回は、並河よりBZとトポロジーに関する最新論文を紹介いたしました。その導入として反応拡散現象の概説をし、BZ、Liesegang、Turingなどを鮮やかな動画とともに紹介しました。様々な分野の研究者より構成さているクラスターですので、化学用語や分子式は極力避け、分子のキャラクターを排除した記号での説明に心がけました。本クラスターの目標の一つが分野を超えた共有原理の探索ですので、個々の要素を記号で表現することは非常に重要なアプローチだと思います。反応拡散の概説ののちに取り上げたのが、FitzHugh-Nagumo方程式を用いて任意のトポロジーの vortex string geometryの反応拡散挙動を追跡した論文です。knotトポロジーを維持しながらreconnectionなしで単純なgeometrical formへ転移する現象を可視化することに成功していました。vortex stringは化学のみならず物理、生物、岩石、数学などにも関連するため、本クラスターにおいても重要な考え方が共有できたと思います。これから数回のミーティングでは各教員からの話題提供を行い、各教員の知識や専門性の中から共通項を見つけ出すことが目標です。今回は、そのための良いキックオフになったと思います。(文責:並河)

2017.05.18 第1回ミーティング

いよいよクラスターが実働し始めました。本クラスターはこれまで殆ど研究交流がなかった異分野の研究者が集まって構成したクラスターです。何が起こるか私たち自身も予測できない状況での船出となりましたが、「新しい視点を持ち、分野を限定することなく自然科学の全ての領域に目を向けながら、研究をより楽しんでいこう」という基本姿勢をお互いに確認しました。並河クラスター代表によるクラスターの趣旨説明の後、各メンバーがそれぞれの研究内容に関する発表を行いました。どの発表も同じ理学部に所属しながらこれまで聞いたこともない内容でとても面白くまた刺激を受けました。一方でお互いの研究内容をしっかりと理解するにはまだ時間が必要だという課題も見えてきましたが、異分野融合のはじめの一歩は確かに踏み出されました。本クラスターの研究目標の一つである豊かな非平衡ダイナミクスが我々の異分野融合クラスターの研究そのものに発現することが大いに期待されワクワクします。

(文:衛藤)

activity

2018, 2017

2017.06.15 第2回ミーティング

2017.07.06 第3回ミーティング

発表スライドより抜粋

16:20 -18:00 @ room 216

16:20 -18:00 @ room 216

発表スライドより抜粋

16:20 -18:00 @ room 216

発表スライドより抜粋

第4回目のミーティングは、新井からの発表でした。発表タイトルは「宇宙論から反応拡散系を考える」です。宇宙論とは、宇宙の構造やその起源を探求する学問で、BZ反応などの反応拡散系とは全く関係ない分野のように見えます。発表者は宇宙論で重要なキーワードになる「落ちこぼれ」の考え方を反応拡散系に適用できるのではないかと提案しました。

発表者は落ちこぼれを説明するために、宇宙膨張の話から説明しました。観測から、宇宙は時間とともに膨張していることが分かっています。これは時間を遡れば宇宙は縮小していくことを示唆しています。宇宙が形成された初期では、宇宙は非常に小さい空間となっており、そのような空間では原子はそのままでは存在できず、原子を構成する電子や陽子、中性子がばらばらになって存在していると考えられています。それらは反応を通して互いに移り変わることができ、両者とも同数程度存在していると考えられています。しかし、宇宙の膨張に従って、互いに移り変わる反応が起きなくなり、中性子の数は少しずつ減っていくことになります。宇宙の膨張の影響を受けて、互いに移り変わる反応が起きなくなることを「落ちこぼれ」といいます。言い換えると、落ちこぼれとは、宇宙の膨張に従って温度と密度が下がるために、反応が起きなくなってしまうことをいいます。発表者は、このような落ちこぼれがBZ反応が起きるような系でも起こりうるのかという提案をしました。BZ反応では、例えば、反応の土台となるシャーレが広がるようなこと(膨張)は考えませんが、宇宙膨張と同様に、シャーレが広がるような状況を考えることで、落ちこぼれが起きる可能性があるのではないかというのが発表者の提案です。そのような提案に対して、膨張をそのものを考えることは難しいが、温度と密度を下がることによって膨張と同等の効果が得られるかもしれないという意見がありました。また、このことは反応拡散系を記述する微分方程式の中で、例えば、密度のパラメーターに時間依存性を入れることによって具体的に記述できるかもしれないという意見もありました。以上のように、宇宙論での考え方がBZ反応においても応用できる可能性があることが示唆され、非常に有意義なミーティングとなりました。(文責:新井)

2017.10.25 第4回ミーティング

16:50 -18:00 @ room 216

発表スライドより抜粋

本日は並河先生の実験室にお邪魔してBZ反応を生で観察させていただきました。大学の実験実習でも取り上げられることのあるポピュラーな化学反応ということですが、門外漢(理論物理、数学、地学)にとってはとても新鮮で楽しかったです。

分野横断の交流によって普段は得ることのない種類の知的刺激をもらいました。化学反応のショックフロントは一種のソリトンということでした。ソリトンはレポーター(衛藤@素粒子理論物理)の専門のひとつなのでとても興奮しました!!

もっと色々見て感じて考えてみたいです。(文責:衛藤)

2017.11.16 BZ反応 鑑賞会

16:20 -17:10 @ room 227実験室

第5回目のミーティングは,湯口から報告を行いました.第一に岩石中に形成される「組織」の実例について紹介しました(例えば,図1の深成岩体中のサブソリダス組織や図2のジルコン中の波動累帯構造)。これらの岩石組織は鉱物中や鉱物間に形成される構造であり,我々のクラスターの命題である「非平衡科学とトポロジー」の探求を行う中で「ジオメトリー」の実例として有用であることを提案しました。

 第2に岩石組織であるサブソリダス組織(図1)を用いることで,岩体の冷却過程の言及が可能であることを,中部日本の土岐花崗岩体を例に紹介しました。また,このサブソリダス組織から得られる冷却様式の解明を通じ,岩石中の割れ目分布を評価できることを示しました。今回のミーティングを通じ,「今日までの岩石学的な研究手法」と「非平衡科学による新たなアプローチ」をリンクさせることにより,新たな知見を得られる可能性を再認識しました。(文責:湯口

2017.11.27 第5回ミーティング

16:20 -18:00 @ room 216

発表スライドより抜粋

1 岩石(花崗岩)中のサブソリダス組織

2 ジルコンの波動累帯構造

反応拡散方程式の解の漸近挙動について触れましたが、主に移流拡散方程式等の数値解法に関する結果を紹介した。2次元の境界値(-初期値)問題に対する Shortley-Weller 有限差分近似に対して、行列解析を行うことにより従来よりも精密な評価を行った。特に、移流拡散方程式のディリクレイ境界値問題に対して、境界の近くでの超収束を示し、また解が(特に境界の近くで)特異性を持つ場合にも、差分解の収束が真の解に収束することを示した。整合性のある有限差分法しか意味を持たない従来の誤差解析理論を超えて、整合性のない有限差分法も工学的に実用できる数学的な基礎を築いたといえる。さらに、多項

式伸長変換を用いる収束を加速する差分スキームを提出し、その評価を得ました。また、多角形領域の楕円型方程式に対して、有限要素法の定式化による Shortley-Weller 有限差分近似の導入いう視点から、差分解の微分の評価はある程度得ている。具体的に、真の解が滑らかなとき離散的な H^1-ノルムでの超収束評価を得、真の解が特異性をもつとき超収束評価が成り立たないが、収束の評価を得た。(図では移流拡散方程式の数値解の超収束性が示されている)  (文責:方)

2018.01.15 第6回ミーティング

16:20 -18:00 @ room 216

発表スライドより抜粋

サブソリダス組織に見られるラメラ周期性の空間勾配形成の謎に探るべく、冷却固化過程の冷却速度や温度勾配を考慮した数理モデルの構築へ向けた議論を行った。その中で、化学的事象と岩石学的事象の時空間スケールのギャップについて議論がなされ、数理科学的手法に基づいた時空間スケールの規格化の重要性が確認された。本クラスター内における分野融合のメリットを活かし、化学・岩石・物理・数理を融合した新たなモデルの提案へ向け研究を進めることを確認した。

2018.04.04 岩石サブラスターミーティング

13:00 -14:00 @ room 216